2009年 07月 10日
いつものレストランで、とある方と
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二つの誕生日、母の日、そして一番存在感の希薄な父の日。それらをひっくるめて祝いの席を設けようと、駄目もとでI・ルポーネに電話をしてみる。
「もしもし、mesinosukeですが」
「こんばんはー」
「ご無沙汰してます。急な話なんですけど、今度の日曜日、入れたりしませんか」
「日曜日ですね。ちょっとお待ちください」
ややや、もしかすると可能性があるのか。
「日曜日、はい、大丈夫です」
「じゃあ、いつもの席をお願いできます?」
「ごめんなさい、今回はあの席をご用意できないんです」
「分かりました」
「大丈夫ですか」
「ええ、構いません。いつもの時間にお邪魔しますね」
「は〜い、ありがとうございます」
さて、当日。わずかばかり早く着いてしまったので、近くで時間をつぶしてから店の前に行くと、
おお、並んでいるではないか。それもけっこうな年輩の方々が。
我々もその後に続いて店内に入ると、いつもとテーブルのレイアウトが変わっている。
テーブルが一部寄せられて、八人掛けほどになっている分、
他のテーブルは二人掛けに分散されていて、
私たちのところだけが四人掛けのテーブルにセッティングされている。
いつものように挨拶を交わし、
ビールを端折って、白ワインで始めることにする。
きょうは、お手頃なシャルドネでいいやと思って、お願いすると
「それはちょっと甘めのワインで、お好みじゃないと思うんですけど」とな。
「そうなの? じゃあ、どうしましょうか」
「前、これはお試しいただいたので、それに近い感じでお勧めしようかなと思っていたワインがあるんですけど」
「どんな感じですか」
「樽の熟成感があるという感じじゃないんですけど、割とすっきりとした後味で、旨みがあるというか」
「じゃあ、それにしてみます」
といってもらったのが、
ナチュラルをモットーに造られた
イタリア・シシリアの有機栽培ワイン
「トマス・エ・ギーセン IGT シシリア・ムニール・ビアンコ 2008(ヴァルディベッラ)」である。
テイスティングをしてみる。
酸をけっこう感じて、切れ味はよい。若干渋みが口中に広がるような。
ただちょっと単調かな、などと思っていると、
「もう少し温度が上がった方がいいと思うんで、テーブルに置かせていただきますね」と彼女。
なるほどね、冷えすぎていてワインの全体像が感じられないのかも知れない。
注文はもう大体決まっている。先ずはミックスサラダに、この日はボードの中からトマトの上にひこ鰯を乗せパン粉を振ってオーブンで焼いた一品を選んだ。ここのミックスサラダは実に旨い。三人で葉っぱやトマトをむしゃむしゃ食べていると、家人が、たった今入ってきた人物を目で追いかけて、唖然としたような顔をしている。
そして一言。
「Y所K司だ」
八人掛けのテーブルには年輩の方が集まっていたが、Y所K司氏はそのテーブルに着いた。
どうやら何かの祝いの席のようだった。一人杖をついた御仁もどこかで見た顔である。
貝のソテーと自家製ソーセージは、愚息の定番。今回はソーセージがいつもの皿とまったく違う様相で出てきた。普通はソーセージにミックスサラダが少し添えられている。が、いつも単品でミックスサラダを頼んでしまうわが家の場合は付け合わせを変えてくれるのだが、今回は、ルッコラが敷かれ、そこにトマトとスライスされたチーズ。ずいぶんと違う印象だ。
「ソーセージの一品って、変わったの?」と聞いてみる。
「違うんです。付け合わせを変えて出してって厨房に言ったら、きょうはこんな感じでした(笑)」
なるほど。
いつも頼まないのにお願いしたというのがアクアパッツァ。この日はコチだった気がする。コチって漢字を当てると牛尾魚と書く。なるほど、そういう形状をしているような気もする。このアクアパッツァ、八百円プラスでパスタを添えることができるとある。魚の旨みを吸ったパスタ。う〜ん、いいじゃないか。それに彼女のお薦めに従って、フレッシュポルチーニのタリアテッレだったかフィットチーネだったか。
アクアパッツァは、パスタが脇に添えられているものだと勝手に想像していたので、アクアパッツァ全体にパスタが散りばめられているような感じだったので、ちょっと驚いた。しかしコチの淡白ながらしっとりとした身に、さわやかなトマトの風味がマッチして実に旨い。パスタも不味かろう訳がない。
フレッシュポルチーニのパスタは、ほんのりクリーム系でお腹をしっかりと満たしてくれる一品だ。意外とさっぱりとした風味のポルチーニ。愚息はピッツアに備えて手を出さなかったが、あっという間に食べてしまう。
気がつくと、ワインの温度が上がり、彼女が言ったようにもっと葡萄らしさがあったり、いい意味でまろやかさがあったりしたのだが、時既に遅し(笑)。もうぼちぼちワインがそこをついてしまいそうなのだ。もう一本飲むかどうか家人と相談するのだが、なかなか踏ん切りがつかない。現時点では飲みたいと身体がいっているのだが、オーバー・ドリンキングになるだろうことは容易に想像できるからである。お皿を下げにきた彼女に窮状を訴える(笑)。
「もう一本いっちゃおうかと思ってるんですけど」
「いっちゃいますか?」
「う〜ん、そうなんだよね」
「きょうは、いくつかのワインをカラフェでご用意できますけど」
おお、よく見れば黒板にそれが書いてあった。何を選んだか忘れてしまったが白をもらったように思う。
さて、いよいよピッツアである。これはもう愚息が頑として譲らない。彼が勝手にビスマルクにするかフンギ・コン・プロシュートにするかを悩んだだけである。マルゲリータなどはもって他である。とにかく今宵は、フンギ・コン・プロシュートで。ま、美味しいのでよいのだが、大人としてはたまには違うピッツアを食べてみたいのである。いつになったら、彼が折れてくれるのだろうか。コルニーチェが格別である。噛みしめていくと香ばしさの向こうから小麦粉の滋味のようなものが立ち上がってくる。堪えられない。
最後のババを楽しもうとしているところで、八人掛けのテーブルでは、HAPPY BIRTHDAYの歌声が起こった。それを聞いていると、どうやらおばあちゃんの誕生日を集まって祝っているということらしかった。歌い終わると店のスタッフが記念撮影。それで、散会である。
と、その時、Y所K司ご本人が我々のテーブルにやってきた。
「どうも、お騒がせして申し訳ありませんでした」
嫌らしさはなく、ごく普通に、礼儀としての一言。
すべてが評判や信頼につながっているということが分かっている男の台詞だった。
後で、家人と、「監督作品の公開おめでとうございます」くらいのことを言えばよかったなどと話した。
今宵も満足。満腹になって店を出る。いつものように彼女が見送りに立ってくれる。
その時、ふと、Y所K司氏はよく来るのか聞いてみようかと思った。
が、何となく、野暮な気がしてやめておいた。
彼女の言うようにカラフェにしておいてよかった、
と帰りのタクシーの運転手の後ろの席で
自分の酔いを確かめながら、そう思った。
ごちそうさま。
「もしもし、mesinosukeですが」
「こんばんはー」
「ご無沙汰してます。急な話なんですけど、今度の日曜日、入れたりしませんか」
「日曜日ですね。ちょっとお待ちください」
ややや、もしかすると可能性があるのか。
「日曜日、はい、大丈夫です」
「じゃあ、いつもの席をお願いできます?」
「ごめんなさい、今回はあの席をご用意できないんです」
「分かりました」
「大丈夫ですか」
「ええ、構いません。いつもの時間にお邪魔しますね」
「は〜い、ありがとうございます」
さて、当日。わずかばかり早く着いてしまったので、近くで時間をつぶしてから店の前に行くと、
おお、並んでいるではないか。それもけっこうな年輩の方々が。
我々もその後に続いて店内に入ると、いつもとテーブルのレイアウトが変わっている。
テーブルが一部寄せられて、八人掛けほどになっている分、
他のテーブルは二人掛けに分散されていて、
私たちのところだけが四人掛けのテーブルにセッティングされている。
いつものように挨拶を交わし、
ビールを端折って、白ワインで始めることにする。
きょうは、お手頃なシャルドネでいいやと思って、お願いすると
「それはちょっと甘めのワインで、お好みじゃないと思うんですけど」とな。
「そうなの? じゃあ、どうしましょうか」
「前、これはお試しいただいたので、それに近い感じでお勧めしようかなと思っていたワインがあるんですけど」
「どんな感じですか」
「樽の熟成感があるという感じじゃないんですけど、割とすっきりとした後味で、旨みがあるというか」
「じゃあ、それにしてみます」
といってもらったのが、
ナチュラルをモットーに造られた
イタリア・シシリアの有機栽培ワイン
「トマス・エ・ギーセン IGT シシリア・ムニール・ビアンコ 2008(ヴァルディベッラ)」である。
テイスティングをしてみる。
酸をけっこう感じて、切れ味はよい。若干渋みが口中に広がるような。
ただちょっと単調かな、などと思っていると、
「もう少し温度が上がった方がいいと思うんで、テーブルに置かせていただきますね」と彼女。
なるほどね、冷えすぎていてワインの全体像が感じられないのかも知れない。
そして一言。
「Y所K司だ」
八人掛けのテーブルには年輩の方が集まっていたが、Y所K司氏はそのテーブルに着いた。
どうやら何かの祝いの席のようだった。一人杖をついた御仁もどこかで見た顔である。
「ソーセージの一品って、変わったの?」と聞いてみる。
「違うんです。付け合わせを変えて出してって厨房に言ったら、きょうはこんな感じでした(笑)」
なるほど。
アクアパッツァは、パスタが脇に添えられているものだと勝手に想像していたので、アクアパッツァ全体にパスタが散りばめられているような感じだったので、ちょっと驚いた。しかしコチの淡白ながらしっとりとした身に、さわやかなトマトの風味がマッチして実に旨い。パスタも不味かろう訳がない。
フレッシュポルチーニのパスタは、ほんのりクリーム系でお腹をしっかりと満たしてくれる一品だ。意外とさっぱりとした風味のポルチーニ。愚息はピッツアに備えて手を出さなかったが、あっという間に食べてしまう。
気がつくと、ワインの温度が上がり、彼女が言ったようにもっと葡萄らしさがあったり、いい意味でまろやかさがあったりしたのだが、時既に遅し(笑)。もうぼちぼちワインがそこをついてしまいそうなのだ。もう一本飲むかどうか家人と相談するのだが、なかなか踏ん切りがつかない。現時点では飲みたいと身体がいっているのだが、オーバー・ドリンキングになるだろうことは容易に想像できるからである。お皿を下げにきた彼女に窮状を訴える(笑)。
「もう一本いっちゃおうかと思ってるんですけど」
「いっちゃいますか?」
「う〜ん、そうなんだよね」
「きょうは、いくつかのワインをカラフェでご用意できますけど」
おお、よく見れば黒板にそれが書いてあった。何を選んだか忘れてしまったが白をもらったように思う。
最後のババを楽しもうとしているところで、八人掛けのテーブルでは、HAPPY BIRTHDAYの歌声が起こった。それを聞いていると、どうやらおばあちゃんの誕生日を集まって祝っているということらしかった。歌い終わると店のスタッフが記念撮影。それで、散会である。
と、その時、Y所K司ご本人が我々のテーブルにやってきた。
「どうも、お騒がせして申し訳ありませんでした」
嫌らしさはなく、ごく普通に、礼儀としての一言。
すべてが評判や信頼につながっているということが分かっている男の台詞だった。
後で、家人と、「監督作品の公開おめでとうございます」くらいのことを言えばよかったなどと話した。
今宵も満足。満腹になって店を出る。いつものように彼女が見送りに立ってくれる。
その時、ふと、Y所K司氏はよく来るのか聞いてみようかと思った。
が、何となく、野暮な気がしてやめておいた。
彼女の言うようにカラフェにしておいてよかった、
と帰りのタクシーの運転手の後ろの席で
自分の酔いを確かめながら、そう思った。
ごちそうさま。
by mesinosuke
| 2009-07-10 18:30
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