2010年 06月 14日
N毛巡礼編 其之二 旨さは特急でやってくる F田フライ
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D一亭を出て大通りを左方向へ。ここでもiPhoneが私たちを導いてくれる。どうか最後までバッテリが持ちますように。
私たちは魔界(酒界)の中心地へと恐れも知らず近づいていく。まだ夕方と呼ぶにも少し早いような時間。右を眺め、左を探しとキョロキョロしながら、目的の店以外にも面白い店はないかと歩く。店の前を掃除したり、仕込中だったり。夜の喧噪に備えて寡黙な準備があちらこちらで目につく。そうこうしているうちに、目的の店は朗らかに現れた。
F田フライ。
店の看板にはこの店名はなく、きっぱりと「フライ屋」とある。なんでも五十年以上の歴史があるらしい。不意に出合ってしまった感じなのだが、どこからが店なのか境界が曖昧で、奥まで風が行き交っている。入り口そばの揚げ場にはおばちゃん。そしてきっと常連なのだろう、手慣れた感じで二人の男がフライをつまみに一杯やっている。おばちゃんの短く刈り上げたヘアスタイルが何故か懐かしい。「二人」と指を出すと「(いちいちいいわよ、そんなの。この時間まだガラガラなんだからさ)どうぞ」とシンプルに通される。
禁煙マークを通り過ぎて、ほぼ一番奥へ。そこには諸々仕込んでいるお兄さんがいる。けっして愛想のいいタイプではなさそうだ。彼が手を休めて「飲み物は?」と聞いてくれたので、お茶割りを頼む。それから先ずはということで「かぼちゃ」を頼む。「ソースは?」と聞かれたので、「?」というような間ができてしまう。「普通、辛いソース?」と聞き直してくれたので「辛いソースで」とお願いする。
これが思っていたよりもずっと素速く供される。他のメニューでもそうなのだが、とにかくここのフライは特急で出てくる。揚げたてを辛いソースにじゃぶっとつけて小皿に出てきたかぼちゃ。旨い!強烈な大蒜の香りにピリリと辛い刺激。こりゃぁ、堪らん。
その後には何を食べたろうか。鰺、烏賊、鯨、鰯、ポテトなんかも食べたかな。とにかくすべて旨かった。
ふと気がつくと、お兄さんが何やら醤油漬けのものをタッパーから移し替えている。つい、好奇心が沸いて訊いてみる。
「なんですか、それ?」
「鯛の白子の醤油漬け」
「へぇ」
「誰もやらないからね、こんな仕事」
もちろんとっても食べてみたかったのだが、
長旅に無理は禁物ということで今回は我慢する。
こんなやりとりがきっかけで、
愛想の悪かったお兄さんからいろいろ話を聞くことができた。
常連に味が変わったと嘆かれるのが嫌で、店を継ぐ気はないこと。
和食の修業をしてきたので、気軽に立ち飲める和食の店をやりたいこと。
などなど。
店を出てから、けっこうあのお兄さんも話してくれたよね、などと閣下と予想外の展開を反芻する。
さて、次は古風な一軒だ。
ごちそうさま。
by mesinosuke
| 2010-06-14 14:07
| sonota