2007年 03月 26日
美味しい燗酒を求めて慣れぬ街へ N志満
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目的地に約一時間で到着。意外と近い。最近の私からすれば十分に徒歩圏内である。さて、到着したのはO森だ。昭和の昔、この街で蕎麦を食べた記憶がかすかにある程度で、馴染みは全くない。予定より早く着いたので、少しだけ街をブラブラしてみる。駅ビルの中に立ち飲み屋がある。早い時間からやっている大衆割烹もいくつかあるようだ。
だが、今宵の目当ては、燗酒目当てでN志満だ。燗酒が楽しくなってから、そうそうよいお店に出合えない。ある程度日本酒に力を入れているような店でも、燗酒はけっこう虐げられている。
引き戸を開ける。いい音がする。程なく奥さんが迎えに出てくれる。
「予約してましたmeですが」
「いらっしゃませ。どうぞ、こちらへ」
ということでカウンターの左端の席をあてがわれる。ご主人にも会釈をして、さて、今宵の一人飲みがスタートだ。
先ずはお酒の相談をする。
「お燗で飲みたいんですが、スタートに何かお勧めはありますか」
すると利き酒師の資格をもつ奥さんが応対してくれる。
「どれくらい、召し上がりますか」
「う〜ん、三〜四合くらいかなあ」
「じゃあ、H盃はいかがですか。けっこうスッキリしていますので、だんだん味のはっきりしたものにしていかれるとよいかと思いますが」
その流れを否定するわけではないのだが、H盃は本醸造だった。そこが今ひとつ。
「う〜ん、純米が飲みたいんですよね〜」
ということで、結局は私が銘柄を指定してしまったのだが、
「K川をお願いします。熱めの燗にしてください」
「はい」
さて、料理はどうしたものか。
酒肴盛り合わせというのがある。
「これは、どんな感じのものですか」とご主人に聞いてみる。
「このあたりのおつまみを少しずつ盛り合わせるんで、お一人のお客さまにはいいかもしれません」
このあたりのおつまみというのが何を指すのかまったく分からなかったのだが、一人客にはいいといわれたのでそれをお願いする。その間にいろいろと考えるということもできるに違いないと思って。
頼んだものよりも先に、お通しをいただいた。
「春キャベツと豚の煮物です」
お、こういうお通しは珍しい。ちょっと家庭料理的なところも意表を突かれた。
煮物といっても、サッと出汁で火を通したというニュアンス。一本目のK川と合わせて、上々の出足である。
K川は始めて飲んだのだが、これがなかなかいけた。今度買ってみようかな。
さて酒肴盛り合わせが出てきた。
「帆立の燻製(だったかな)、白海老木の芽酢掛、蛍烏賊酢味噌掛け、目光一夜干し、○○○○(忘れました)です」と説明されて、気づいた。そうなのか。なにか盛り合わせ用のものがあるのではなく、その日のメニューから盛り込んでくれるということなのか。
もうほとんど酒がない。次は、目の前にある酒たちが気になったので、こいつをもらおう。
「このにごりも燗にしてもらえますか」
「はい、何でもしますよ」とご主人。
ならばということで、F桑鶴のにごりを燗にしてもらう。熱めでね。
このF桑鶴のにごり、S根にいったときに地元のよい感じの酒屋で見かけたのだ。
で、燗で飲みたいんだが、このにごりはどうかと聞いたところ、
まったく勧められなかった。というか、こっちの純米の方がというようなニュアンスだったので、
そっちを買ってきてしまったのだ。そんな経緯があったので、このにごりの燗は楽しみ。
で、一口。素晴らしい〜じゃないですか。旨みの含み方、酸がありながら主張しない感じ。グッドです。
なあんだ、地元の酒屋さんでも知らないんだな、こういう旨さがあることを。
ちょっとずつ盛られたつまみを、ちょっとずつつまみながら、いい燗酒を楽しむ。いい、実にいいじゃないですか。
さて、次のつまみは〆鯖。本当は喉黒を頼もうと思っていたのだが、あっさり〆鯖に変更。理由は分からない。
お酒は、これも目の前にあったT遊林のこれまたにごり。熱めでね。
〆鯖は一般的なレベルからいえば十分美味しいと思う。がしかし、T八のそれを知っていると、ちょっと世界が違う。
T遊林のにごりは、F桑鶴のにごりと違って、ちょっとした風味を感じる。上手くいえないのだけれど、フラットではなくテクスチャーがあるというか。
さて、私は野菜食いである。魚ばかりだと疲れてしまうのだ。見るとメニューには春野菜の天ぷらしか、野菜らしきものがない。天ぷらはあまり気が進まない。トゥー・マッチな感じがするのだ。香の物もみあたらない。
「何か、野菜ものはありませんか」と聞いてみる。
するとご主人が、
「釣きんき沢煮か、大原女蒸しがありますが」と。
「それは野菜だけじゃないんですよね」
「ええ、お魚を使ってますね」
「どう違うんですか」
「どちらもさっぱりしてますけど」
どうもちっとも分からない。野菜だけではないという点で、ちょっと残念なのだが、天ぷら以外で野菜を食べるにはどちらかを頼むしかないようだ。
「じゃあ、沢煮をください」
「はい」
個人的には、お浸しとか、根菜類の炊き合わせとか、そういうものがあったらなあと思うのだが。そうやって眺めてみると、ここのメニューは徹頭徹尾、魚という印象だ。ご飯やうどんはあるのだが。
沢煮は、沢山煮るという意味らしい。野菜を細く拍子切りにしたもののなかに(こういうところが和食の凄いところだ)、きんきが鎮座している。出汁も上品で、魚の旨みが仄かに出ていて美味しい。にごり酒も進もうというものだ。確かにけっこうさっぱりしていたので、あっという間に食べてしまう。もうちょっと食べるかと思って、馬刀貝を頼んでみる。嶺岡煮というのがなんだか分からないまま。で、結論からいうと牛乳ベースのスープに馬刀貝が入ってきた。あとでこの嶺岡煮というのを調べてみたら、C葉県の嶺岡という場所に古くから伝わる牛肉と牛乳を使った料理だとどこかで解説があった。それを馬刀貝に応用したということか。嶺岡は日本酪農発祥の地だそうだから、牛乳を使って煮込む料理を和食の世界ではこう呼ぶということなんだろうか。私は醤油焼きの方がよかったなあ。おそらく。馬刀貝は牛乳と合うような気がしなかった。
さて、最後にもう一杯もらおう。K酛のどぶにしてみる。熱めでね。そしてアボカドとスッポンのスープを見つけたので、頼んでみる。高カロリーだなあ、などと思いながら。アボカドは野菜か果物か、などと考えながら。
K酛のどぶはきりりとりりしかった。これはよかった。そこで、もしかしたら、にごりに関しては頼む順番が逆だったかもしれないと思った。これでいいのか。それとも徐々に骨格のふくよかなものにしていった方がよかったのか。逆だったかもなあ。今度は違う流れで楽しんでみよう。ラインナップが変わっていなければね。
アボカドとスッポンのスープは、勝手にイメージしていたものより随分と粘度のあるものだった。スッポンは下拵えがしてあったが、アボカドは注文が入ってから、皮を剥き、種を取って調理していた。アボカドの緑の海の中にある種の凝固点のようにスッポンの身が潜んでいる。その噛み応えがなかなかよい。そしてそれをK酛のどぶで流し込む。
ふう、この辺にしておこう。常連になると、もっときっと融通がきくんだろうなあ。
しかしお酒のラインナップがよくて、なかなかである。またいくだろうと思う。
お会計をしてみてちょっと驚いた。これなら絶対にまた行くのだ。
ごちそうさま。
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