2009年 11月 11日
戻ってこなかった失われた酒 手打そば I
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この日も昼から飲もうという魂胆。が、ジムに思いのほか時間をとられ、お昼時を大きく回ってしまう。う〜む。どうするか。狙いを蕎麦屋に絞って、休みなく営業を続ける店を探す。あった、あった。しかも個人的に非常に懐かしいK品仏の駅のすぐそばではないか。そこまで行くとなると、以前一度行ったことのあるO山台の鮨屋も思い浮かぶが、残念ながら営業時間には間に合わない。
さて、蕎麦屋。漢字一文字「I」とな。
ドアに北海道産の新そばとある。ドアは自動だったように記憶している。このあたりが、微妙に頭の中にノイズを引き起こす。
店に入るなり、姿は見えないものの「いらっしゃいませ」の声。
さすがに中途半端な時間で客は誰もいない。妙に明るい照明が、背徳の楽しみをチープなものにおとしめてしまうようだ。四人掛けのテーブル席に、入り口に向かって座る。C寿庵とかM田屋などによくありそうな、一頁一頁がビニールで覆われたメニューを繰る。酒はいくつかあったのだが、お燗の酒としてはK正宗が挙がっている。なるほど。こういうところでは無理を言わないことにしている。K正宗が別に嫌いなわけではないしね。
しかし、ジムで汗を流した後でもあるので、先ずは麦酒をもらう。わさび芋や板わさを頼んだように思う。
相変わらず誰も入ってこない。明るく広い店内に私一人である。また、女将さんが私の左目の端の方に常にいて、こちらの様子を伺っている(ま、これは注文に応えようという姿勢なのだろうけど)ので、落ち着かない。こちらの魂胆が白日の下に晒されているような気分だ。
麦酒を飲み干し、お燗をもらう。この店ではそれほど量を飲む気にならないので、日本酒をちびりちびりとやっていた時、それは起きた。
すっと上から下へ何やら黒いものが通り過ぎたと思ったら、猪口の酒の中に虫が浮いていたのである。やれやれ。
「すみませ〜ん」
「はぁ〜い、ただいま」
「お酒の中に虫が入っちゃったんですけど」
「あら、ほんとだ。徳利から?」
「いや、上から落ちてきたんで、お銚子のお酒は大丈夫だと思いますけど」
「あ、そうですか」
といって、酒の入った猪口をもって下がった女将さん。
私はこの事態にどう対処してくれるのだろうと、敢えて何も言わず待った。
女将さんは「はい、どうぞ」と新しい猪口をもってきた。それだけだった。
虫の湯船と化した私の酒は、帰ってくることはなかった。覆水盆に返らず。いや、虫酒徳利に返らず、か。
残り少なくなった酒をすすりながら、これが賑わう大衆酒場だったらどうだろう、などと考えた。
「旦那さん、これ、よかったらどうぞ」とか、半分の酒を新たにくれたりとかしたんじゃないだろうか。
少々丁寧さには欠けるかも知れないが、気持ちの伝わる何かがあったと思うのだ。
別に猪口一杯の酒にくだくだこだわるつもりはない。
客(酒飲み)の立場にたった振る舞いができるかどうかで、大きな差が付くということだ。
大衆も高級もない。商売のスタンスである。
せいろを手繰って、会計をする。妙に端数の細かいお勘定を払うのだが、その時も虫の件に触れるでもなし。
新そばの味など、覚えてはいない。
ごちそうさま。
さて、蕎麦屋。漢字一文字「I」とな。
ドアに北海道産の新そばとある。ドアは自動だったように記憶している。このあたりが、微妙に頭の中にノイズを引き起こす。
店に入るなり、姿は見えないものの「いらっしゃいませ」の声。
さすがに中途半端な時間で客は誰もいない。妙に明るい照明が、背徳の楽しみをチープなものにおとしめてしまうようだ。四人掛けのテーブル席に、入り口に向かって座る。C寿庵とかM田屋などによくありそうな、一頁一頁がビニールで覆われたメニューを繰る。酒はいくつかあったのだが、お燗の酒としてはK正宗が挙がっている。なるほど。こういうところでは無理を言わないことにしている。K正宗が別に嫌いなわけではないしね。
しかし、ジムで汗を流した後でもあるので、先ずは麦酒をもらう。わさび芋や板わさを頼んだように思う。
相変わらず誰も入ってこない。明るく広い店内に私一人である。また、女将さんが私の左目の端の方に常にいて、こちらの様子を伺っている(ま、これは注文に応えようという姿勢なのだろうけど)ので、落ち着かない。こちらの魂胆が白日の下に晒されているような気分だ。
麦酒を飲み干し、お燗をもらう。この店ではそれほど量を飲む気にならないので、日本酒をちびりちびりとやっていた時、それは起きた。
すっと上から下へ何やら黒いものが通り過ぎたと思ったら、猪口の酒の中に虫が浮いていたのである。やれやれ。
「すみませ〜ん」
「はぁ〜い、ただいま」
「お酒の中に虫が入っちゃったんですけど」
「あら、ほんとだ。徳利から?」
「いや、上から落ちてきたんで、お銚子のお酒は大丈夫だと思いますけど」
「あ、そうですか」
といって、酒の入った猪口をもって下がった女将さん。
私はこの事態にどう対処してくれるのだろうと、敢えて何も言わず待った。
女将さんは「はい、どうぞ」と新しい猪口をもってきた。それだけだった。
虫の湯船と化した私の酒は、帰ってくることはなかった。覆水盆に返らず。いや、虫酒徳利に返らず、か。
残り少なくなった酒をすすりながら、これが賑わう大衆酒場だったらどうだろう、などと考えた。
「旦那さん、これ、よかったらどうぞ」とか、半分の酒を新たにくれたりとかしたんじゃないだろうか。
少々丁寧さには欠けるかも知れないが、気持ちの伝わる何かがあったと思うのだ。
別に猪口一杯の酒にくだくだこだわるつもりはない。
客(酒飲み)の立場にたった振る舞いができるかどうかで、大きな差が付くということだ。
大衆も高級もない。商売のスタンスである。
せいろを手繰って、会計をする。妙に端数の細かいお勘定を払うのだが、その時も虫の件に触れるでもなし。
新そばの味など、覚えてはいない。
ごちそうさま。
by mesinosuke
| 2009-11-11 11:56
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