2006年 07月 19日
何事もないふつうのK田にて
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K田に到着したのは、五時前。引き戸を二つ開けて店内に入ると、右のコの字のカウンターはほぼいっぱいだ。そこに三席続けて空いている席の一つに腰を掛けると、「お一人なら、こちらへ」と、夫婦と一人酒を楽しんでいるおじさんの間の席を勧められる。どこに座ろうと、まもなく満席となるのだ。不満はない。
が、左のご夫婦。この前もこの席でお見かけした記憶がある。ややや、右斜め前の眼鏡の御仁。ラジオを聴きながらけっこうな量を飲む面長で髭の濃い人だが、この方も前回一緒だった。それとなく、確認し合う。
「瓶ビールください。茶豆に、合鴨、塩で二本。それから冷やしトマト。あと、つみれ汁予約入れてください」
「あ、今ね、お椀はね、冬瓜なのね。走りで美味しいわよ」
「じゃあ、冬瓜汁、予約ね」
そうか、鰯はまだ季節だと思ったが、きょうは冬瓜なのだ。とにかくビールに合わせたラインナップでスタートしてみた。それにしても次々と客が入ってくる。左のカウンターは端からいっぱいだ。ほとんどのお客が二階で良しとするか、諦めるかの選択を余儀なくされている。こういうとき、一人は気楽でいい。
さて、菊正に切り換えましょう。常温で。お刺身はと。きょうはコチか。他には、薩摩揚げは、ちょっと多いかなあ。おっ! 生しらすがある。これにしましょう。それからお新香。生しらすの鮮度はややぼやけていましたが、ま、許せる範囲でしょう。しかし、ここらあたりでメニューがどんどん消されていきます。早いなあ。菊正をおかわりして、様子を見ましょう。
私の右隣のお客さんが冬瓜汁を頼みます。で、冬瓜汁が出てきたときに、ご主人が私の方に出そうとするもんだから、「こっちは予約だから、まだいいです」と私。「相済みません、じゃ、こちらの方で」と右隣の方に。右隣の方が、「じゃあ、お先にいただきます」と椀の蓋を取ります。ひゃあ〜っ、旨そう!
「旨そうですねえ」と思わず私。
「夏は、最高ですよ」と右隣の人。会話はこれだけでしたが、いやあ、期待が高まるなあ。
しばしして、堪えきれなくなりました。
「予約の冬瓜汁、お願いします」
「はい、予約の冬瓜汁、通してください」と、久しぶりにご主人の大きな声が厨房に通ります。
出てきた椀の蓋を取ると、熱々の湯気が立ち上ります。真ん中に豚ばらを細かく切ったものが。一口汁を啜ってみます。これは、旨いっ! つみれ汁なんかよりもはるかに美味しい。胡椒が利いているところが意外でしたが、それが抜群に旨い。ひゃあ〜、こんな美味しい椀を知らなかったなんて。もう、これだけできょうのK田は値打ちがありますね。淡泊でトロトロの冬瓜。いやあ、美味しいなあ。冷めないように椀の蓋を閉じて、しばし菊正の世界に戻ります。もう一本いっちゃおう。
さらに最後にもう一本、菊正をもらって、辛子味噌をオーダー。
「これは、辛いからね、ちょっとずつね」とご主人が注意かたがたもってきてくれました。最後の一本をちびりちびり楽しみながら、ゆっくりとクロージングを迎えます。
すると奥さんが
「これ、うちの写真集なんだけど、差し上げましたっけ」と。
「いえ、いただいていないです」
「素人がつくったものだから、恥ずかしいんですけど、よかったおもちください」
「そうですか、ありがとうございます」
写真集を見ながら、菊正をちびり。へぇ、何回かお店の場所、変わっていたんだ。この場所になってからも、今の店内じゃない写真もある。七十年の歴史のある居酒屋で、私のここまでの生涯滞在時間は、どのくらいなんだろうなんて、想像してみた。
K田に関する以前の記事はこちら>>>「開店と同時を狙った久々のK田」
2005年の今日の記事はこちら>>>「蘇る記憶の中のメンチ!」
2004年の今日の記事はありません。
□□□きょうの「食」ヘッドライン・ニュース□□□
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by mesinosuke
| 2006-07-19 15:08
| ▷washoku